
住まいの性能
住まいにも性能があるの?
家は、雨風をしのぐ最低限の壁と屋根があれば良いわけではありません。
丈夫で長持ち、健康で快適に安心して暮らす事など、求めたいものはたくさんあるはずです。
住まいにも、自動車や電化製品などのように”性能”があるのです。
では、どんな性能があるのでしょうか。
住まいの性能

耐震性能
在来工法の現状
もともと日本の伝統的な工法である木造軸組み工法は、地震に強く優れた構法でした。
しかし、戦後の住宅不足から簡単に大量に家をつくる時代に変り、よりコンパクトに合理的かつ低コストで家をつくることが常態化すると、柱や梁は細く仕口も簡単なものだけになり、簡略化されて一部では秩序すら無くなってしまいました。
安く、特別な技術無しにできる事は良いのですが、多くは根拠のない簡素化になって耐震性に大きな影響をあたえてしまうようになり、その結果震災で倒壊する危険がある建物が多く存在するのが今の在来工法の現状です。
震災に備えて考えると
現在の法律は耐震性の見直しが図られずいぶん良くなってきました。しかし法律は最低限のものなので「これで完全」というものではありません。
大地震はいつ来るかわかりません。だから、住まいに求めたい事が二つあります。
一つ目は、「自宅にいれば安全」であること。
二つ目は、その後も簡単な補修で住みつづけられること。
倒壊しないだけでなく基本構造がびくともしない、そのまま住み続けられる家は、建物の形やバランスを考え、材を選定し、許容応力度計算(木造3階建て以上で必要な計算)にて根拠を確認してしっかり造らなければなりません。
【耐震強度の基準】
原則全棟許容応力度計算を行い、住宅性能表示制度の等級3(法律基準の1.5倍の壁量)を推奨します。
条件によって難しい場合は等級2(1.25倍)を最低限とします。
構造計算のほかに
ほかにも耐震性に影響をあたえることがあります。
一つは構造材の収縮や狂いによる接合部のがたつきと金物のゆるみ。
もう一つは結露や雨漏りによる構造材そのものの腐食とシロアリ被害。
これらの現象は年数が経つと、土台や梁・柱の仕口や筋交いの接合部といった大事なところが役に立たなくなります。
常にこれらが良い状況にあるかが強度の維持する上で重要です。適材を選定し、雨漏りと結露をおこさせないことが地震対策に欠かせません。
結露をおこさせない
水分によって腐食するする木が果たして構造材として良いのか?と思うかもしれませんが、それはつくり方次第で、その点さえクリアすれば住まいは木造が一番適しています。
結露はそのメカニズム上、断熱性(建物の省エネルギー性)ととても関係が深く、しっかり対策をしないと高性能住宅ほど結露を起こす要因が大きくなります。

省エネルギー・温熱性能
正しく断熱を行う
日本の木造建築は、もともと暖房を行って全体を暖めるようにつくられていません。近年住宅用の冷暖房機器が発達してからは、寒い地域から気密性の高いアルミサッシが導入され、厚い断熱材を入れるようになり、冷暖房を効かすための部分的な改善がおこなわれて来ました。
しかし、これが住宅を腐らせる原因となり、健康に悪影響を及ぼす結果を招いてしまったのです。
この寒冷地での大失敗の経験から、正しい断熱・気密化を行わなければ、住む人と建物双方に良い環境は生まれないという事がわかりました。
全館空調の効果
正しい断熱・気密化とは、断熱・気密の施工精度を高め、換気を含めた温熱計画をしっかり行うことです。
これによって、寒さ暑さの影響を受けない、家の中の温度がほぼ均一になる、小さな冷暖房で済む、結露がおこらない、といった4つの効果が生まれ、全館空調ができる家となります。
全館空調は常時建物全体の空調を行うので、温度差をつくることなく快適性を保ちながら、結露やヒートショックによるストレス・健康被害の抑制、建物の寿命を延ばすことができます。
ではそのための光熱費はどうなのか?
性能が高い建物では既に実績があり、部屋別に空調を行いON/OFFを行うよりも光熱費が下がる事がわかっています。
脱炭素と住宅
2050年までにカーボンニュートラルを目指すために、建築の中で唯一法律から除外されていた住宅にもにようやく省エネルギー基準(断熱等級4)が適用されて義務化になります。住宅の最低基準となった等級4は、2021年までは目標値としての最高等級でした。それだけ遅れていたということです。
義務化によってあらたに等級5,6,7の上位等級が目標値として設定され、2030年には等級5(現在のZEHと同等)が義務化となる予定です。
住まいはどこを基準とし、何をもって性能と考えるかが大事だと思います。
計算数値は良いに越したことはありませんが、人が生活する上で優先すべきは施工性やコストのバランスを考えつつ温度差をつくらない全館空調空間をつくる事であって、弊社が考える数値は等級6を基準としています。
CO2の排出量を減らすためには、一次エネルギー(電気などに加工される前のエネルギー)の消費量を減らします。一次消費エネルギーといって家庭内で使われるエネルギーと、エネルギーの創出(太陽光発電などがあれば)で相殺して計算されます。
住宅で使われるエネルギーの使用量を減らす事が目的ですが、そのための方法としては建物の断熱性能を高める(漏出を減らす)ことと、設備機器の効率を上げることの二つに分かれます。
断熱性能が低いとエネルギーのムダになるので、先に断熱化をする事が先決です。これは前述の全館空調の考え方で出来るので、ここまで行っておけば快適で健康・省エネルギーな家は出来ます。
その上で設備機器の効率をどこまで上げられるかを検討、その先にエネルギーの創出となるのですが、建築コストとの兼ね合いを考えて順序だててバランスよく計画します。
再生可能エネルギーの導入
再生可能エネルギーを導入することはとても良い事ですが、現状で住宅に使えるものは太陽光発電しかなく、狭小地などの屋根の小さな地域では少量しか乗らない場合があります。また、屋根のメンテナンス問題や落雪・反射などの近隣への影響など導入にはデメリットもあるので、建物や立地条件をよく検討して導入は慎重に考えたいところです。
東京都では電力不足対策の一環として家庭用蓄電池と太陽光パネルに補助を出しています。
蓄電池は災害時にも役立つので、補助金のメリットを活かして太陽光と蓄電池とのセットを検討する価値があります。
この分野では、今後の風力や地熱などの住宅利用の可能性を是非期待したいところです。
参考値
<断熱性能(外皮平均熱貫流率:UA値)>
推奨値:0.46w/㎡k~0.4w/㎡k程度※
FPの家:参考:0.43w/㎡k(平均値)※
省エネルギー性能においては、長期優良住宅・低炭素認定住宅などの認定が受けられます。
断熱性能等級6、HEAT20/G2、東京ゼロエミ住宅水準3レベル、相当になります。
<気密性能(隙間相当面積:C値)>
0.3~0.5c㎡/㎡
※UA値は0.46~0.4w/㎡k程度を推奨値とし、最低値を0.6w/㎡k(ZEH水準)とします。数値はプランや間取り、コストとのバランスによってフレキシブルに検討します。等級7を目指す場合は付加断熱(充填+外断熱)となるため、狭小地においてはプランに影響が出る場合があります。
※C値は特殊な建物の形や開口部、特に小規模の場合は0.5以上となる事があります。
<一次エネルギー消費量>
BEI=0.65(省エネルギー基準の-35%)が無理のなく導入できる値と言えますが、機器の選定によって更に消費量を下げる事は可能です。(東京ゼロエミ住宅水準3はBEI=0.6)
日射遮蔽・取得の必要性
日差しから受ける熱量は、暖房機などとは比較にならないくらいとても大きなエネルギーです。
住宅には、光や風を取り入れ快適に暮らすためにかかせない窓が沢山あります。
窓は冬に日差しを取り入れ夏に遮る工夫をすれば、冷暖房のエネルギーが無駄にならずに楽しめます。特に冬の日差しは暖房では得られないほどの高い効果があります。
夏の日射遮蔽対策は必須です。行わないと断熱性が高い家でも冷房が全く効かなくなるので、日中の日差しが入る大きな窓や、西日を受ける窓には必ず対策を考えます。遮蔽効果の高い外付けのものが特に有効です。
外付けの場合は、メンテナンスが出来る設計の工夫も重要です。
変りつつある木造の資産価値

耐久性能
木造の寿命は30年と言われていた時代がありましたが、現在でもそれはあながち間違いではありません。しつこいようですが、日本の木造住宅の多くは耐久性に影響を及ぼす結露に対して、完全な対策が講じられていないからです。
日本の資産価値基準では、木造はコンクリート造と比べて半分の寿命しかないとされていますが、リフォームを行って長寿命化を行う事や、耐久性の高い住宅に対して資産価値を伸ばそうという動きはどんどん進んでいます。
つまり日本も欧米のように、良い木造住宅なら転売時に値が付くようになり、転勤などで住む場所が変わってもマイホームの買い替えで住み変えることが実現する可能性があると言われているのです。
将来を見据えて、耐久性の高い住宅を建てておくことは資産価値の維持につながります。
特に結露対策には手を抜かないことです。
防腐・防蟻対策
ここにも「結露」が関わってきます。緻密な断熱施工と高気密化によって、建物の構造体内に結露が起きなければ、常に乾燥した状態に保たれて腐食を防ぎます。これだけで関東に多いヤマトシロアリの被害は減ります。
近年では地球温暖化の影響でイエシロアリの被害が増えています。イエシロアリは水を運びながら加害し被害も早く甚大なので危険な害虫なので、結露の対策のほかに、シロアリが好まないヒノキや杉の無垢材の使用や蟻返しが有効で、効果が持続するホウ酸防蟻処理を行う二重三重の対策が欠かせません。
木材本来の耐久性
住宅性能表示制度では、木材の寿命はヒノキなどで75年から90年とされていますが、良い状態におかれた木材の強度は100年から200年で最も高くなり、それ以降1000年近くかけて元に戻るとされています。
ということは、木材は良い環境にさえ置かれていれば一生モノのはずなのに、30年で腐らせてしまうなんて大問題ですよね。
基礎の耐久性
木材だけでなく基礎のコンクリートにも寿命があります。おおよそ生コンの強度と材量の比率によって決まります。
一般の木造住宅に使われるコンクリートが40年~50年で強度低下が始まるのに対して、コンクリートの強度を高めることで100年近くまで寿命を延ばす事が出来ます。
耐久性能(住宅性能表示制度:劣化対策等級) 3等級

維持管理
性能
長寿命住宅こそ維持管理が重要
住宅の耐久性が高くなると、設備や配管などは、リフォームやメンテナンス時にそれぞれの寿命に応じて更新していかなければなりません。住まいの素材や部品は、維持管理を行うために更新のしやすさが求められます。
設備配管については、ヘッダー式とし、点検口の設置や配管経路の集中化を行い、24時間換気はダクト式集中型システム換気を採用します。(アルデ集中換気システム)
点検の重要性
維持管理では、築年数を問わず住宅履歴情報の保管と定期的な点検を行い、新築時から60年以上先までのメンテナンス計画と、その維持費がわかる維持管理計画表の作成をおこなっています。
維持管理性能(住宅性能表示制度:維持管理対策等級) 3等級
遅れている日本の住宅の温熱環境
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健康・
バリアフリー
日本の住宅は、国の経済事情が絡む特殊な側面があったため、景気に影響するという理由から制度や規制を設けにくい事情がありました。他国がどんどん住宅の断熱や省エネルギーの基準づくりを進める中、目標基準しか無いまま今に至った日本は、圧倒的に立ち遅れてしまいました。
2025年、戸建て住宅に省エネルギー基準が義務化されると、やっと先進国の片隅には入りますが、肩を並べるには全く至っていません。なにしろ30年近く前の目標基準が義務になっただけなので。
とはいえ国の基準が出来た事は、地域等の独自基準策定の動きなどが活性化され、今後のレベルアップとインセンティブが期待できるようになります。
ただ、健康の観点から考えると断熱・省エネ基準だけではなく、住宅の最低気温の基準をつくり義務化をすべきです。ヨーロッパはもとよりアジアでもこの基準・義務化は進んでいるのですが、規制対象の多くが個人となる(賃貸が少ない)日本では規制が難しく、推奨値すらありません。
ヒートショックの問題
先の述べた事情から、日本の家は先進国の中では最も寒いと言われ、トイレや浴室でのヒートショック事故が大きな社会問題となっています。
寒いから熱い風呂に入りたい。廊下や脱衣場が寒ければもっとそう感じるかもしれませんが、そこに危険が潜んでいます。
この問題を防ぐために、住宅の断熱化を行い、水回りを含む生活空間を温かくしてヒートショックを緩和する事が急務です。
新築ではある程度断熱化された住宅が多くなりましたが、既築の住宅では、9割近くが対策されておらず、無断熱かそれに近い建物です。
このように、日本の住宅はとても危険な状態であるにもかかわらず、断熱リフォームは思うように増えません。理由は寒さに慣れている日本人にとってコストメリットを感じにくいからです。
しかし、倒れてからでは遅いので、ハードルの高い全体の断熱化ではなく、少しづつ部分断熱を行って、コストを抑えた無理のない対策を行っていけば良いのです。家族を守るために是非ご検討ください。
日本ならではの健康被害
ヒートショックによる事故ほかに、健康を害する要因として、結露による空気環境汚染があります。ここでも「結露」ですが、湿気の影響は日本の気候では大きな問題として様々な事につきまとっているのです。
住宅では湿気によって埃の吸着、カビを発生が起こり、それらを好むダニを増殖させます。
カビの胞子とダニの糞や死骸が室内に広がると、その中で生活する人はアレルギーや慢性病などのシックハウス症候群になる恐れがあります。
このように温度差と結露は、どちらも様々なストレスとなって人に影響を及ぼしますが、ストレスを無くす事がバリアフリーであるならば、性能で解決できる事はとても多く効果は高いと思います。

環境性能
社会に対しての環境
住宅の環境性能とは、自然環境やまちなみに配慮しているか、という外部や社会に対することと、人が生活するうえで住みやすく快適であるか、という居住性についての二つがあります。
社会に対しては、住宅にかかわる建材の製造から建築、生活、廃棄まですべてのライフサイクルCO2を評価し、削減していく事を考えます。
また、デザインの調和や緑を増やすことも、街の環境として計画します。
居住性においては、広さや明るさなどの心地よさと、温熱環境や健康性などすべてのことが含まれます。
住まいづくりの計画として、CASBEEなどの評価システムを利用することを提案します。

可変性
長く住み継ぐための可変性
これからの住まいは、ライフスタイルの変化に対応し、次の世代に住み継いであらたな家族に適応することを考え、可変性を考えておくことが大切です。
先々の可能性を設計時に計画に入れて、構造に影響することなく部屋をつなげたり、入口を増やすなどの可変性を盛り込むこと、また将来の転売を考えて、家族形態の違いを受け入れる数パターンの可変性が行えるスケルトン・インフィルとするなどが考えられます。
住宅を資産として考える上で、可変性は大きな可能性とメリットを生むこととなります。